漫画『左ききのエレン』は「天才」と「天才になれなかった人たち」の物語だ

面白い本

天才になれなかった全ての人へ

 

このひとことから始まるのが、漫画『左ききのエレン』だ。

 

 

この世に存在すると言われる、1万分の1の、ごく一握りの天才と、

 

天才をめざして、なりきれなかった9999人の人たち。

 

お互いに決して理解できないような考え、それぞれにしか分からない苦悩と努力。

 

天才が抱く渇望感、天才になれなかった人たちの等身大のあがき。

 

それらを一作の物語で描き切る『左ききのエレン』は、間違いなく傑作である。

 

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天才「エレン」と凡才「朝倉光一」

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『左ききのエレン』第一巻より

『左ききのエレン』は、横浜のとある美術館の壁になされた、壮大なスプレー缶によるラクガキ事件が始まりだ。

 

その絵はラクガキと呼ぶにはあまりにもレベルが高すぎ、また挑戦的であった。

 

現場に落ちていた校章が、自分の高校のものであったことから、朝倉光一はラクガキの犯人を「横浜のバスキア」と呼んで探し始める。

 

「横浜のバスキア」は、自分より上手いと思えるラクガキを見つければ、間違いなくそれに上書きをしようとするだろうと考えた光一は、取り壊しになる部室棟の壁に、自分ができる最高の作品を描き続ける。

 

そしてとうとう現れた「横浜のバスキア」は、左手にスプレー缶を持ったエレンだった。

 

ここから天才と天才になれなかった全てのひとたちの物語が始まる。

 

9999人の天才になれなかった人たち

『左ききのエレン』には、天才になれなかったたくさんの人たちが登場する。

 

朝倉光一は、美大を卒業したのち、大手の広告代理店に就職する。

 

しかし天才デザイナーを夢見ながらも、地道な仕事さえままならず、理想と現実の間に苦悩する。

 

優秀な営業マンとして働く流川は、元々はコピーライター志望だった。

 

しかし社内でコピーライターになるためには、試験を通らなくてはならず、流川はそれに落ち続けた。

 

業務の隙間を縫って、コピーライティングの勉強をしようと意気込んでいたものの、実際には日々の仕事でさえ手いっぱいの毎日。

 

やがてはコピーライターの夢を諦めた。

 

『左ききのエレン』には、こうしたごく普通の人たちがたくさん登場する。

 

広告代理店の世界だけではなく、誰もが経験する「夢を諦める」「挫折する」という出来事が、非常に繊細に描かれている。

 

しかし『左ききのエレン』が、天才の物語であることも忘れてはならない。

 

こうした誰にでも起こりうる挫折の経験が、『左ききのエレン』では天才からの視点でも描かれる。

 

9999人の天才になれなかった人たちの苦難や葛藤は、間違いなく読者の胸を打ち、共感を生むだろう。

 

だがそれだけではなく、そんな9999人の人たちを見る「天才」の視点があるからこそ、この物語のシーンは、複雑に混ざり合ったなんとも言えない色をしたパレットを見るような気分にさせるのだ。

 

天才がゆえに、普通になれない天才たち

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『左ききのエレン』第五巻より

 

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『左ききのエレン』第五巻より

『左ききのエレン』は、天才の物語でもある。

 

世間がうらやむ圧倒的な才能を持つ天才たちは、彼らだからこそ生じる苦悩を背負っている。

 

本作の主人公「エレン」は、まさにその苦悩の象徴として描かれる。

 

圧倒的な絵の才能を持つエレンは、「普通」になれない少女だった。

 

何をしていても絵のことしか考えられない、自分の外見や周囲の人間には興味が持てない。

 

そんな普通になれないことに、普通とはいったい何なのかということに、エレンは悩み、やがて心を閉ざす。

 

エレンが心を閉ざしてしまった最大の要因は、父の死だった。

 

エレンの父は画家だったが、いくら絵を描いても思うように売れず、自分には才能がないということを突き付けられる毎日の末に、命を落としてしまった。

 

幼少期のエレンにとって、大好きな父の死は深いトラウマとなり、圧倒的な才能を持ちながら、絵から離れ、心を閉ざすようになってしまう。

 

そう、天才エレンの父こそ、天才になれなかった9999人のうちの1人だったのである。

 

だからこそ、エレンは自分が圧倒的な才能を有していることに誰よりも自覚的であり、また才能を持てなかった人たちの苦しみを、違った視点から知っていたのだ。

 

天才になれなかった人たちの生き方

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『左ききのエレン』第三巻より

『左ききのエレン』では、天才になれなかった人たちの、彼らなりの生き方が鮮明に描かれる。

 

朝倉光一が勤める広告代理店は、一見華やかなクリエイターたちが働いているように思えるが、実際はそうではない。

 

広告代理店は、ごく一握りの天才と、それ以外の天才になれなかった人たちが働く場所であったということを、光一は知る。

 

そこでは良いコピーを書くために、何百本も案を出し続けるコピーライターや、地道な作業をひたすら続けるデザイナー、プレゼンで企画を通すためにありとあらゆる事態を想定するチームなど、たくさんの人たちの細かい努力が描かれる。

 

実際には仕事にならない部分で、良い作品を作るために奮闘するクリエイター、サラリーマンたちの姿には、読者は感動せざるを得ない。

 

たった15秒、30秒のCMの裏には、何人もの徹夜の日々が隠れているのだ。

 

広告代理店の仕事は、天才たちの一瞬のひらめきによって輝く場所ではない。

 

9999人の天才になれなかった人たちの、小さな一歩の莫大な積み重ねの先に輝く場所なのであろう。

 

読み切ったあとに、きっと頑張りたくなる

『左ききのエレン』で描かれる人々が働く姿に、影響を受けない読者はいないだろう。

 

多くの読者と同じように、天才になれなかった彼らが、それでも努力し、時には這いつくばりながら、ごく一握りの天才と肩を並べて歩くようになる物語は、よくある王道のストーリーとはまた違った形で、読者に勇気を与える。

 

天才たちの、天才になれなかった人たちの、等身大の姿勢や言葉に触れることで、ボクらは小さな一歩を踏み出せるようになる。

 

読み終えた後には、きっと何かに頑張りたくなる。

 

そんな一作として『左ききのエレン』は読まれていくだろう。

 

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